戦いもせず、死にもせず、自分はただの傍観者だった。
終戦を宣告された直後の日本人の暮らし。政府や軍人への風当たりが、日に日にひどくなっていく様子が痛々しい。
風太郎青年は相変わらず客観的に物事を見ていて、「日本人の顔は貧相だなぁ」とか「アメリカ記者が日本人はいかにも疲れた顔に見えたといっていたが、これはもともとそうなのである」といったくだりが、明治時代のイギリス人の本にも似たようなことが書かれてあり興味深かった。
人間の尊厳など根こそぎ奪われて、余裕のない日本人がどんな末路をたどったか細かく描かれている。
晩年の風太郎登場。終戦の年の大晦日の日の風太郎青年と、野山に生きている白兎の描写で読後感はなんとも言えない気持ちにさせられる。
ゆるいコメディが得意の少女漫画家勝田文が、よくここまで戦争ものを描き切ったなぁと。平和を振り返るときに度々読みたい作品です。